治療ブログ

2024.01.07

各ライフステージの口腔内に関する特徴(妊娠時や新生児のケア)

①妊産婦期:妊娠期および授乳期を含む出産前後の女性

②新生児期:出生から生後4週(28日)まで

③乳児期:新生児以降1歳未満(離乳期を含む)

④幼児期:1〜5歳(満1歳以降小学校就学まで、前期1〜2歳、後期3〜5歳)

⑤学齢期:6〜15歳(小・中学生)

⑥青年期:15〜29歳(前期(思春期):15〜19歳、後期:20〜29歳)

⑦成人期:30〜64歳

⑧老年期:65歳以上

☆①妊産婦期☆

(1)妊娠時に見られやすい歯や口の問題
・歯肉に腫れや出血がある
・冷たいものや熱いものがしみる
・歯や歯肉に痛みがある
・唾液が粘っこい感じがする
・気分が悪く、歯みがきができない
・食事回数が増えて、歯垢が溜まりやすく感じる

(2)妊娠期の歯・口の健康リスク
妊娠により女性ホルモンが急激に増加することで、プレボテラ・インターメディアという歯周病原性細菌が増殖しやすくなり、また血管の透過性が高まり、唾液の粘性が高まって口腔の自浄性が低下することで歯肉の炎症や出血が起こりやすくなります。
また、「つわり」による食嗜好の変化や歯みがきの困難、胎児の発育による食事回数の増加とそれに応じた口腔ケアが不足しがちなことなどにより、口腔環境は悪化してむし歯や歯周疾患のリスクは高くなります。

(3)対策
妊娠中は、食生活や口腔ケアの問題からむし歯や歯肉炎にかかりやすいことを伝えて、普段以上に気を付けてもらうことが大切です。
食事や間食の回数が増すので、食後の歯みがきやうがいをこまめに行うようにしましょう。
「つわり」の時には、できるだけ気分のよい時に歯みがきを行い、みがけない時はぶくぶくうがいをしましょう(ヘッドの小さな歯ブラシを使うとよいでしょう)。
食嗜好も変わりやすいので、糖分の多い飲食物や酸性食品をだらだら食べることは控えましょう。

2.赤ちゃんの歯の発育と栄養・保健

(1)赤ちゃんの歯の発育
子どもの歯が生え始めるのは生後6~8カ月頃ですが、歯のもとになる芽(歯胚)ができ始めるのは妊娠7~10週頃です。
妊娠4~5カ月頃からは この歯の芽にカルシウムやリンがくっついて少しずつ硬い組織になり、歯の形を作っていきます。
一部の永久歯の芽も妊娠期から作られ始めます。

(2)歯の発育に必要な栄養
歯の発育に必要な栄養は、歯を硬くするカルシウムやリンばかりでなく、歯胚の形成に役立つ良質のタンパク質、カルシウムの代謝を助けるビタミンD、Eや歯質の基礎を作るビタミンA、Cなど様々です。
赤ちゃんの丈夫な歯を作るためにも、バランスのとれた食事を心がけるようにしましょう。

(3)赤ちゃんの歯科保健
健康な状態でも、口の中にはたくさんの細菌がいます。
むし歯菌の代表的なものは「ミュータンス菌」で、この菌は歯の表面に付着して増える性質をもっています。
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中にはミュータンス菌はいませんが、やがて周囲の人の口の中にいたミュータンス菌が唾液などを介して、赤ちゃんの口の中に入ってきます。キスやスプーンなどを介して侵入します!!
それでも歯が生えないうちはミュータンス菌が住み着くことはありません。
乳歯が生えてきて、糖分を含む食べ物を摂るようになると、ミュータンス菌が住み着きやすくなります。
授乳や食事の後はガーゼや歯ブラシで歯をきれいにしましょう。

3.妊婦歯科健診と歯科治療

(1)妊婦歯科健診
妊娠中はむし歯や歯周病になりやすくなっている上に、これらの初期症状に自分からは気づきにくいものです。つわりがおさまる4~5カ月頃に歯科健診を受けて、比較的体調の安定した妊娠中期に必要な歯科治療を済ませたいものです。

(2)妊娠時の歯科治療

1)受診時の注意点
歯科治療に当たっては母子健康手帳を提示して、産婦人科医から注意を受けていることは必ず歯科医師に伝えましょう。

妊婦が妊娠後期に仰向けに寝ると体調がすぐれなくなることがあります。これを「仰臥位低血圧症候群」と言い、左側臥位(左側を下にする)で寝るようにすると楽になります。

「仰臥位低血圧症候群」になる理由は
母体の下腹部付近に存在する腹腔動脈と下大静脈の上に胎児が乗っかり、血管を圧迫します。するともともと血流の勢いが弱い静脈は、血流が低下してしまいます。つまり、母体の心臓に血液が戻らなくなってしまうのです。そうなると、心臓から血液を出せなくなるので、全身に送る血液も少なり、血圧が低下し、体は酸素不足に陥ります。その結果、悪心・嘔吐、生あくびなどの「仰臥位低血圧症候群」になります。

では、「仰臥位低血圧症候群」の妊婦を左側臥位にすると、何故楽になるのでしょうか。
動脈と静脈は重なっているのではなく、動脈が左、静脈が右にあります。左側臥位にすると、胎児の体重が左にある動脈の方に乗っかります。そうすると静脈の方にかかる比重が少なくなり、血流が再開するようになります。動脈は血液の流れが強いのでどうにか流れます。

できるだけ楽な姿勢で治療を受け、体調や気分が悪くなった時は遠慮なく申し出ましょう。

2)歯科治療に際しての心配事

・エックス線撮影の胎児への影響
歯科治療で通常用いられるエックス線の放射線量はごくわずかで、照射部位も子宮から離れていて、お腹の赤ちゃんにはほとんど影響はありません。防護用エプロンを着用するとさらに安心です。

・歯科治療時の麻酔の使用
通常の歯科治療に用いられる麻酔は局所麻酔で、使用量もわずかです、局所で分解されるため、胎児には影響ありません。
痛みを我慢しての治療は、母体にも胎児にもストレスになるため、安定期には適切に使用した方がよいかと思われます。
出産予定日が近い場合は循環動態が変化する局所麻酔は控えるべきなので、治療はできるだけ妊娠前、もしくは3-7ヶ月程度で終わらせることを推奨します。

・薬物の服用
妊娠中に必要であれば薬を処方することもあります。しかし使う薬は慎重に選択するべきであり、できれば薬物の服用を避けたいものです。やはり常に口腔内を管理していくことは重要だと考えます。

 

食べる、話すなどの重要な器官の一つである歯や口に関する正しい知識や技術を得てもらい、母子ともに安全で健康な状態を作ることも歯科医院の大事な役割の一つだと考えています。

萩野 貴磨

TEL:03-5990-2835 初診専用WEB予約
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